競馬の斤量は1kg違うごとに1馬身の差が生まれると言われていますが、科学的な根拠はあるんですか?
ただの推測なのでは?
人間ならまだしも、400~500kg超もある馬体に数kg差の斤量って、レースを大きく左右するものなのでしょうか?
競馬の定説とされている「1kg=1馬身の差が出る」とか「1kg0.2秒違う」は本当なのか?
このような疑問があると思います。
初めに結論を申し上げると、科学的根拠らしいものは見つかりますが、「コレだ!」という決定的なものは見つかりません。
・イギリスでハンディキャップ競争を開始した頃、「1ポンド(約0.45kg)=半馬身(約0.1秒)という考えが主流だった
・JRAのハンディキャッパーも1kg=0.2秒でハンデをつけている
・ワールドサラブレッドランキングでは、1馬身=0.2秒、2馬身=0.3秒、6
馬身=1秒でタイム換算している
・南山大学の学生が調べたところによると、牡馬に対して牝馬は2kgで0.1秒、2.5kgで約0.2秒早く走れる
JRAでも世界でも古くからの「1kg=1馬身」「1kg=0.2秒」を長きにわたって採用していると思われます。
さらに調べていくと、「馬体重の12.5%を超えた斤量から負担が一気に大きくなる」という科学的っぽく見えるものを発見しました。
そうなると、500kgの馬で斤量62.5kg以上、450kgの馬で斤量56.25kg以上から大きく影響を受けることになります。
ディープインパクトはやっぱり怪物でステイゴールドは斤量に泣かされた
ディープインパクトはやっぱり異次元に強かった
ディープインパクトは現役時、436kg~452kgで出走していました。
馬体重の12.5%以下だとさほど影響を受けないという先ほどの理論を当てはめると、ディープインパクトが本来の能力を発揮できる適正斤量は、56.5以下(最高体重452kg想定)ということになります。
ということは、それを超える57kgや58kgで出走したレースでは能力を100%発揮されていない可能性すらあります。
有馬記念2着時は、440kgの馬体重に対して斤量55kg。
12.5%で、理屈上ギリギリのラインです。
ディープインパクトを負かした1歳上のハーツクライは、馬体重498kgに対して、斤量57kg。
11.44%で、ディープインパクトより負担斤量だけ見ると、有利にも見えます。
車も差のないエンジンを積んでいたら、スピードの面では車体が軽い方が圧倒的に有利です。
「軽トラにフェラーリのエンジンを積んだら…」と考えると何となくイメージできると思います。
凱旋門賞時は、斤量59.5kgです。
レースに出走時の馬体重は分かりませんが、前後のレースを見る限り440kg前後で出走していたと推測されます。
440kgに対しては、有馬記念の55kgが上限値です。
ですので、ディープインパクトにとっては59.5は明らかに不利な材料だったはずだと結論づけることも出来るのです。
ですので58kgを背負いながら、天皇賞(春)でリンカーン(馬体重480kg)を0.6秒ぶっちぎったり、宝塚記念でナリタセンチュリー(馬体重476kg)を0.7秒引き離したのは、2着以下の馬たちとは圧倒的に力が違ったと言えるでしょう。
ステイゴールドは体格に恵まれていたらGⅠ5勝馬になっていた?
GⅠ2着4回 でシルバーコレクターと呼ばれたステイゴールドは、408kg~436kgで出走していました。
「馬体重の12.5%」理論に当てはめると、最大斤量54.5kg以上(馬体重436kg想定)だと競走能力に影響があることになります。
1.天皇賞(春)418kg-58kg-13.88%-1着メジロブライトとは0.3秒差
メジロブライトは460kgで58kgという斤量は馬体重の12.6%です。
ステイゴールドの斤量が57kgでも13.64%。
56kgでも13.4%。
55kgでも13.16%。
「馬体重の12.5%を超えた斤量から負担が一気に大きくなる」という理論に当てはめると、ステイゴールドはハンデ戦でもないのに、相当なハンデを背負っていたことになります。
実際に2馬身差で0.3秒差だったので、斤量が2kg軽かったら勝っていた計算になります。
しかも、メジロブライトは斤量58kgでも馬体重58kgに対して12.6%ですが、ステイゴールドは56kgでも馬体重に対して13.4%です。
斤量を3kg減らしても、馬体重に対する負担斤量の比率はステイゴールドの方がまだ高いのです。
これはあくまでタラレバの話で「計算上はそうなる」という話なので、実際斤量が2~3kg軽ければ勝っていたかは誰にもわかりません。
2.宝塚記念426kg-58kg-13.62%-1着サイレンススズカとは0.1秒差
サイレンススズカは同斤量でしたので、446kgで馬体重に対して13.00%。
サイレンススズカは武豊騎手に「サラブレッドの究極形」と言わしめたほどの名馬です。
ステイゴールドをサイレンススズカと同じ馬体重の13%に合わせるとすると、55.38kgになります。
55.38kgという中途半端な斤量は無いので、55.5kgだとすれば、2.5kg差。
2.5kg差ということは、計算上0.4~0.5秒ステイゴールドが早くゴール出来ることになります。
3.天皇賞(秋)426kg-58kg-13.62%-1着オフサイドトラップとは0.2秒差
オフサイドトラップは476kgで馬体重に対して12.18%。
先ほどのサイレンススズカが思い出される1998年の天皇賞(秋)を制したのは、8歳馬オフサイドトラップでした。
この時のオフサイドトラップは、馬体重に対して12.5%未満でした。
そして、ステイゴールドが例えば馬体重の12.5%の53.5(厳密には53.25kg)で出走できていたなら…。
斤量差は4.5kg差になるので、実際の着差は1と1/4馬身差の2着でしたが、逆に1馬身差をつけて勝ってたかもしれないという計算になります。
4.天皇賞(秋)420kg-58kg-13.8%-1着スペシャルウィークとは0.1秒差
スペシャルウィークは470kgは馬体重に対して12.34%です。
スペシャルウィークの斤量は馬体重の12.5%未満なのに対して、ステイゴールドは13.8%です。
ステイゴールドが12.5%だった場合52.5kgです。
もはやハンデ戦のような斤量で全然現実的ではありませんw
しかし、仮に52.5kgだった場合5.5kg差です。
実際のレースはクビ差(0.1秒差)の2着でしたので、52.5kgが実現していたら5馬身以上の差で圧勝していたかもしれないのです。
競馬の斤量の影響(1kg=1馬身)を狙う3歳馬たち
実際のレースでは、調教師の方が斤量が軽いことの有利さを肌感覚で体感していらっしゃるのか、夏以降の競馬で3歳馬が活躍するケースが目立ちます。
例えば夏の風物詩、新潟直線1,000mで行われるアイビスSDの負担斤量は下記の通りです。
3歳牡馬・・・53kg
3歳牝馬・・・51kg
4歳以上牡馬・・・56kg
4歳以上牝馬・・・54kg
このような斤量差があります。
3歳と4歳以上の馬が同じような実力だった場合、3歳馬に有利に見えますね。
海外の場合でも、フランスで行われる凱旋門賞は下記のようになっています。
3歳牡馬・・・56.5kg
3歳牝馬・・・55kg
4歳以上牡馬・・・59.5kg
4歳以上牝馬・・・58kg
日本の競馬のように年齢差による負担重量は3kgと同じですが、性差による負担斤量の違いは日本の場合は2kgですが、凱旋門賞の場合1.5kgになっています。
科学的には、未だに斤量差がどのくらいレースに影響があるのかは解明されていません。
レースは、その時の体調や成長度、メンバー構成、枠、展開、馬場状態などいろいろな要素が複雑に絡み合いますので、「負担斤量だけが敗因」と特定しづらいのが、科学的根拠が出てこない原因じゃないでしょうか。
同じ競馬場でも、開催時期によって時計が出やすいor出にくいなど、1レース1レース全く同じ条件で行われない以上、結論としては科学的に「1秒=1馬身」と結論づけるのが難しいのだと思います。
ただ一つ言われていることは、斤量差は重い芝(ヨーロッパのような時計のかかる馬場)でより顕著に表れると言われています。
それに伴って、雨でぬかるむ様な「重」や「不良」の馬場状態の時に斤量が軽い方が有利になると言われています。
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